知っておきたい「クラウド」の基本
~なぜクラウドサービスが広がっているのか~
「クラウド」という言葉が、近年頻繁に取り上げられるようになりました。IT業界で働いている方ではなくても、ニュースなどで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
一般用語としても浸透しつつある「クラウド」ですが、定義がやや曖昧で、人によって解釈が異なっていることもあります。
そこでこのページでは、そもそもクラウドとは何なのか?クラウドを使うことのメリットは何か?といった、クラウドの基本的な知識を紹介してみたいと思います。
クラウドとは何か?
「クラウド(雲)」とは、ネットワークを通じて、ITサービスを複数の利用者に提供する仕組みのことを総称的に表す言葉です。ここで言う「ITサービス」とは、サーバー、データベース、ストレージ、アプリケーションなど、様々なIT関連のサービスを含んでいます。
私たちは普段、仕組みを意識することなく、スマートフォンやPCなどを使ってウェブサイトで情報収集をしたり、ゲームを楽しんだりしています。実はこのとき、インターネットを通じて端末から遠隔のデータセンターに通信が繋がり、そこに導入されたサーバーやデータベースなどが動くことで、サービスの提供が実現しています。
このように、あらかじめ端末の中に入れておくデータやプログラムだけでサービスを作るのではなく、利用するIT資源は端末の向こう側に雲(クラウド)のように置いておき、1人1人に必要なサービスを、必要なときに提供することができるようにする ー それが「クラウド」の考え方です。
馴染みのあるサービスの中から例をあげると、GmailなどのWebメールや、Office365などのオンラインで利用するオフィスソフトは、クラウドを使ったサービスになります。一方で、PCに最初から入っているメモ帳や、ワードやエクセルをPCにインストールして使うことは、クラウドではありません。
なお、「クラウドコンピューティング」や「クラウドサービス」という言葉を、略して「クラウド」と呼ぶこともあります。総務省(※1)によると、それぞれの定義は以下のようになります。
クラウドコンピューティング
インターネット上のネットワーク、サーバ、ストレージ、アプリケーション、サービスなどを共有化して、サービス提供事業者が、利用者に容易に利用可能とするモデルのことです。クラウドコンピューティングには主に仮想化技術が利用されています。
クラウドサービス
クラウドサービスは、クラウドコンピューティングの形態で提供されるサービスです。従は、利用者側がコンピュータのハードウェア、ソフトウェア、データなどを、自身で保有・管理し利用していました。クラウドサービスでは、利用者側が最低限の環境(パーソナルコンピュータや携帯情報端末などのクライアント、その上で動く Web ブラウザ、インターネット接続環境など)を用意することで、さまざまなサービスを利用できるようになります。
クラウドを牽引するアマゾン
アマゾン(Amazon)といえば、インターネットで様々な商品を購入できるECサイト最大手のイメージが強いと思いますが、実はクラウドの世界的なリーダー企業というもう1つの顔があります。
アマゾンは、自社サービスに利用していたクラウドの仕組みを他社にも提供する形で、早くから「Amazon Web Services(AWS)」というクラウドサービスを開始しました。クラウドの持つ大きな長所が、スタートアップ企業から銀行や大手製造業など多くの企業に受け入れられて、現在、世界中に数百万の顧客を持つほどの事業に育っています。(※2)
日本でもクラウドの利用は急速に広がっており、数十万の顧客がいます(※2)。保守的でセキュリティにも厳しいイメージのある大企業や金融機関でも、クラウドの活用に舵を切るところが増えてました。
例えば三菱UFJ銀行は、2017年から「クラウドファースト」の大方針を掲げて、AWSの活用を推進することを宣言しました。持ち株会社や銀行など、グループ内の主要企業だけで1000ほどある業務システムについて、着実にAWS移行を進めています。また、AWSで構築する新システムは従来比で60~70%のコスト削減ができるとしています。(※3)
なぜクラウドが広がっているのか?
なぜ、クラウドの利用は近年急速に広がっているのでしょうか?それは、従来のITサービスと比較して、以下のような3つの大きなメリットがあるためです。
1情報インフラのコストを抑えることができる
従来、情報システムを構築するためには、自前で「データセンター」と呼ばれるコンピュータを多数設置した施設を作って運用する必要がありました。データセンター利用料、サーバー代、ライセンス費用、ネットワーク費用、電気代などに多額の投資を行った上で、メンテナンスを行うスタッフも常時雇わなければならず、定常的に人件費がかかりました。
さらに、情報システムがどの程度のキャパシティ(やり取りするデータ量など)を必要するかを長期的に予測して、それを超える性能を持つシステムをあらかじめ用意する必要があったため、大きな無駄が発生することもありました。
ところが、クラウドの登場がこの問題を大きく改善させました。クラウドサービスを活用すれば、データセンターの運用・保守を丸ごと削減し、必要なときに必要なだけクラウドのITリソースを購入してシステムを動かすことができます。従来、データセンターの運用・保守にかかっていた初期費用や高額の固定費を、クラウドサービスの利用料にあたる低額の変動費に置き換えることができるのです。キャパシティの変更も柔軟に行うことができ、無駄の発生を抑えることも可能です。
オンプレミスとクラウドのコストの違い
2スピーディーにサービス構築を行うことができる
自前でデーターセンターを作るのは、非常に長い時間がかかります。まずはどのような情報システムを構築するのか計画を立て、見積もりを行います。場所を用意し、必要な機器を選定・購入して、設置を行います。さらに機器の初期設定やソフトウエアのインストールなども必要です。これら全ての作業を、専門的なスキルを持ったスタッフが行わなければなりません。通常、準備を開始してから稼働するまでに、数週間から数か月という期間が必要になります。
システムの改修を行う際は、改めてインフラの要件を入念に検討した上で、同様の流れを経ることになります。
一方、クラウドサービスを活用すると、わずか数クリック、数分で素早くインフラを構築することが可能です。新しい機能が必要になったり、利用者の増加でシステムの性能を上げる必要が出てきた場合に即座に対応することができるし、他社に先んじた新規事業の立ち上げや、急激な方針転換なども実現できます。クラウドサービスによって、従来とは全く異なる時間軸でビジネスを進めることができるようになったのです。
3クラウドの技術発展の恩恵を受けられる
クラウドサービスは日進月歩で進化を続けており、次々に新しい機能が開発されています。
AI(人口知能)やIoT、ブロックチェーン、ロボット工学、衛星通信などの先進技術を自力で開発しなくても、クラウドを通じて手軽に取り入れ、今までにないサービスを生み出すことができます。
また、「規模の経済」が働くことで、クラウドの利用する企業が増えれば触れるほど、ITリソースの利用料金も引き下げられます。
クラウドの分類
一口に「クラウド」といっても、クラウド事業者と利用者が管理する範囲や役割分担の違いや、サービスの公開範囲によって、様々なタイプに分類されます。一般的に、前者を「サービスモデル」による分類、後者を「実装モデル」による分類と呼びます。
クラウドの分類方法(※4)
モデル名 | 分類の基準 | 区分 |
---|---|---|
サービスモデル (service model) | クラウドサービスの構築・カスタマイズに関する役割分担による分類 | 「クラウド事業者に任せる範囲」と「利用者が管理・構築する範囲」による区分 |
実装モデル (Deployment model) | クラウドサービスの利用機会の開かれ方による分類 | 利用機会の公開の程度・公開状態の組み合わせによる区分 |
サービスモデル(Service model) | |
---|---|
分類の基準 | クラウドサービスの構築・カスタマイズに関する役割分担による分類 |
区分 | 「クラウド事業者に任せる範囲」と「利用者が管理・構築する範囲」による区分 |
実装モデル(Deployment model) | |
---|---|
分類の基準 | クラウドサービスの利用機会の開かれ方による分類 |
区分 | 利用機会の公開の程度・公開状態の組み合わせによる区分 |
以下では、それぞれの分類について詳しく説明します。
クラウドの3種のサービスモデル
サービスモデルは、クラウドの構築・カスタマイズに関する役割分担によって、以下の3種類に分類します。
サービスモデルの分類(※4)
モデル名 | 呼び方 | 定義 | 利用者 |
---|---|---|---|
IaaS (Infrastructure as a Service) | イアースまたはアイアース | サービスとして提供されるインフラストラクチャー | ICTサービスの運営者 |
PaaS (Platform as a Service) | パース | サービスとして提供されるプラットフォーム | ソフトウェアの開発者・実装者 |
SaaS (Software as a Service) | サース | サービスとして提供されるソフトウェア | 一般ユーザー(エンドユーザー) |
IaaS(Infrastructure as a Service) | |
---|---|
呼び方 | イアースまたはアイアース |
定義 | サービスとして提供されるインフラストラクチャー |
利用者 | ICTサービスの運営者 |
PaaS(Platform as a Service) | |
---|---|
呼び方 | パース |
定義 | サービスとして提供されるプラットフォーム |
利用者 | ソフトウェアの開発者・実装者 |
SaaS(Software as a Service) | |
---|---|
呼び方 | サース |
定義 | サービスとして提供されるソフトウェア |
利用者 | 一般ユーザー |
インフラストラクチャーは「基盤・下支えするもの」を指す仮想サーバ、ソフトウエアは個別の機能をもつアプリケーション、プラットフォームは個別の機能をもつアプリケーション(ソフトウエア)を導入するOS(基本ソフトウエア)を指しています。
コンピュータの階層とサービスモデルの関係を図にすると、以下のようになります。
コンピュータの階層とサービスモデルの関係
最近では、IaaS/PaaS/SaaSを含めて、様々なクラウドサービスを総称するXaaS(ザース)という呼び方も使われています。X(エックス)には、様々なアルファベットが入ります。
例えば、DaaS(Desktop as a Service)はデスクトップ仮想化システムをクラウドで提供するサービスを指し、IDaaS(Identity as a Service)は認証管理機能をクラウドで提供するサービスを指します。また、自動車業界で盛んに使われるMaaS(Mobility as a Service)も、XaaSの一種です。
1IaaS(Infrastructure as a Service)の特長
IaaSでは、クラウド事業者が提供する仮想サーバ(インフラストラクチャー)を土台に、利用者がOS(プラットフォーム)やアプリケーション(ソフトウェア)を管理します。3つのサービスモデルの中で最も利用者の制限が少ないモデルです。利用者の判断で自由なシステム構成や運用方法などを採用することができますが、クラウドの専門知識や開発スキルも必要となります。
代表的なサービスは、「世界3大クラウド」と呼ばれる以下の3サービスです。
世界3大クラウド

AWS(Amazon Web Service)
アマゾン

Microsoft Azure
マイクロソフト

Google Cloud Platform(GCP)
グーグル
前述のとおり、現時点でリーダー的地位に位置するのはAWSであり、世界的で最も使われています。
2PaaS(Platform as a Service)の特長
PaaSでは、クラウド事業者が提供するOS(プラットフォーム)を土台にし、一定のルールや制限の中でアプリケーション(ソフトウエア)開発が可能となるモデルです。インフラを気にせずアプリケーション開発に集中できるため、小規模なサービスを迅速に立ち上げたいケースに向いています。
例としては、サイボウズ株式会社の「Kintone」や、株式会社セールスフォース・ドットコムの「Marketing Cloud」などがあります。
3SaaS(Software as a Service)の特長
クラウド事業者が提供するアプリケーションを、そのままネットワーク経由で利用するモデルです。
私たちが普段インターネットを通じて利用しているSNS、電子メール、カレンダー、オンラインストレージなどがSaaSに含まれるサービスです。
クラウドの4種の実装モデル
続いて、実装モデルについて説明します。実装モデルは、”誰に対してクラウドサービスの利用を開放しているか”によって、以下のように分離します。
実装モデルの分類(※4)
実装モデル | 利用制限がある者 | サービスの提供者 |
---|---|---|
プライベートクラウド (Private cloud) | 同一組織内の部門や個人 | その組織自体、またはクラウドの運営を委託された外部組織 |
コミュニティクラウド (Community cloud) | 業界団体や特定のコミュニティ(共同体)に属する組織 | コミュニティの構成組織、またはクラウドの運営を委託された外部組織 |
パブリッククラウド (Public cloud) | 登録すれば、誰でも利用可能 | クラウドサービスを公に提供しているクラウド事業者 |
ハイブリッドクラウド (Hybrid cloud) | ハイブリッドクラウドは、上記3種の実装モデルの組み合わせであるため、クラウド内の仮想サーバやディレクトリ(フォルダ)やデータ種によって異なります。 |
プライベートクラウド(Private cloud) | |
---|---|
利用制限がある者 | 同一組織内の部門や個人 |
サービスの提供者 | その組織自体、またはクラウドの運営を委託された外部組織 |
コミュニティクラウド(Community cloud) | |
---|---|
利用制限がある者 | 業界団体や特定のコミュニティ(共同体)に属する組織 |
サービスの提供者 | コミュニティの構成組織、またはクラウドの運営を委託された外部組織 |
パブリッククラウド(Public cloud) | |
---|---|
利用制限がある者 | 登録すれば、誰でも利用可能 |
サービスの提供者 | クラウドサービスを公に提供しているクラウド事業者 |
ハイブリッドクラウド(Hybrid cloud) | |
---|---|
詳細 | ハイブリッドクラウドは、上記3種の実装モデルの組み合わせであるため、クラウド内の仮想サーバやディレクトリ(フォルダ)やデータ種によって異なります。 |
1プライベートクラウドの特長
プライベートクラウドは、特定の企業や組織の中だけで独自に利用するクラウドです。組織自身または運営を委託された外部の企業がサービスを提供し、企業に属する部門や個人が利用者となります。
企業の施設内にデータセンターを構えるケース(オンプレミス)や、社外のデータセンターに運営を委託するケース(ホスティング型)があります。
2コミュニティクラウドの特長
コミュニティクラウドは、複数の組織が共同で利用するクラウドサービスです。特定のコミュニティ内の情報共有や共同作業のために用いられます。コミュニティクラウドを構成する組織や、運営を委託された外部の企業がサービスを提供します。
プライベートクラウドよりも低コストで、パブリッククラウドよりも特定の業界・業態に合わせたサービスを作りやすい特長があります。
近年、地方自治体、金融機関、教育機関が複数集まり、コミュニティクラウドを利用することが増えてきています。
3パブリッククラウドの特長
パブリッククラウドは、インターネットを経由して誰もが手軽に利用できるクラウドサービスです。
先述したAWS(Amazon Web Service)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)などの大手クラウド事業者が提供しているサービスは、パブリッククラウドに該当します。
パブリッククラウドでは、サービスの内容や利用料金などはクラウド事業者が定めます。特定の利用者に対してカスタマイズすることは基本的にありません。
4ハイブリッドクラウドの特長
ハイブリッドクラウドは、これまでに紹介した3つの実装モデルを組み合わせて構築したクラウドサービスのことを指します。
標準的な機能はパブリッククラウドにて提供し、組織特有のカスタマイズが必要な機能はプライベートクラウドで提供する等の使い方があります。
クラウドと情報セキュリティ
クラウドの持つポテンシャルを理解できても、「やっぱりセキュリティ面が大丈夫なのか心配」と感じる方も多いのではないでしょうか。
実際、総務省の「通信利用動向調査」(※5)によると、クラウドサービスを利用しない理由として最も多く挙げられるのは、セキュリティ面の不安です。
クラウドサービスを利用しない理由(総務省「平成30年通信利用動向調査」)

たしかに、コンピュータネットワークにおいて、情報セキュリティは非常に重要なテーマです。情報セキュリティに関わる問題を起こせば、全国的に報道されるなどして企業価値や信用を大きく損なう結果になりかねません。
また、不正アクセスやコンピュータウィルスなど、情報セキュリティに関するサイバー犯罪の相談件数も増加傾向にあります。
AWSの情報セキュリティへの取り組み
そのような背景から、クラウドサービス事業者も、情報セキュリティへの取り組みを積極的に行っています。
例えばAWS(Amazon Web Service)は、「セキュリティは最優先事項」と言っており(※6)、大きなコストをかけて以下のようなセキュリティを担保する仕組みを作っています。
データの保護
プライバシーに関わるデータを保護するため、AWSのインフラストラクチャーには強力な安全対策を用意しています。すべてのデータは、安全性が非常に高いAWSのデータセンターに保存され、セキュリティツールを使って自動的に保護されます。
継続的な監視
AWSのインフラストラクチャーの安全性やアクセス履歴は常に監視されて、異常があれば瞬時に検知されます。また、不正アクセスを防止するため、ネットワークへのアクセスは厳重な認証機能が搭載されています。
第三者からの認証
コンピュータのセキュリティに関する様々な要件をクリアできているかについて、第三者の監査機関から検査を受けています。
例えば、国際的な基準としては、クラウドサービスのセキュリティに関する規格の「ISO 27017」や、個人データの保護に関する規格の「ISO 27018」などの認証を取得しています。日本国内の基準としては、金融システムのガイドラインのFISC、マイナンバー法、医療情報ガイドラインなどに準拠しています。
とはいえ、クラウドサービスを利用する際には、信頼のおけるクラウドサービスの基盤を用いつつ、利用者自身も情報セキュリティの担保に積極的に取り組むことが必要です。
AWSは、利用者に向けた専門的なガイダンス(※7)を提供したり、信頼できるAWSパートナーの紹介も行っているので、参考にするとよいでしょう。
おわりに
クラウドの基本について説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?
クラウドには非常に大きな長所があり、誰もがその価値を活かしてサービスを構築することができます。
また、クラウドを活用するためには極めて専門的な技術知識やノウハウが必要となるため、信頼のおけるパートナーが居ると非常に心強いでしょう。
DWSは、クラウド技術の精鋭が集まったクラウド専業のシステムインテグレーターです。ぜひお気軽にご相談ください。
※1 総務省「国民のための情報セキュリティサイト」
※2 ITメディア「AWSのビジネス戦略、改めて顧客志向を鮮明に AWS Summit Tokyo 2019基調講演」
※3 三菱UFJ「クラウドから離れられない」コスト6~7割減
※4 出所:総務省 ICTスキル総合習得教材
※5 総務省「平成30年通信利用動向調査の結果」
※6 AWS クラウドセキュリティ
※7 セキュリティガイダンス
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